「“眠り”のしくみ」では、 “眠り”の基本メカニズムと“眠り”の不思議について解説していきます。
正しい知識を身に付け、皆さんにとっての「健康的な“眠り”」を考える一助としてご活用ください。
監修:滋賀医科大学 名誉教授 山田 尚登 先生
「“眠り”のしくみ」では、 “眠り”の基本メカニズムと“眠り”の不思議について解説していきます。
正しい知識を身に付け、皆さんにとっての「健康的な“眠り”」を考える一助としてご活用ください。
監修:滋賀医科大学 名誉教授 山田 尚登 先生
ヒトの睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠*1 からなる睡眠サイクル*2 があらわれ、
8時間/晩の睡眠時間*3 で4~5回の睡眠サイクルが生じます。
睡眠の前半で深い睡眠(ノンレム睡眠N3)があらわれます。
深いノンレム睡眠N3の時間は目覚めに向けて短くなり、レム睡眠と浅いノンレム睡眠N2、N1の時間が長くなります。
レム睡眠とノンレム睡眠は役割が異なっていると考えられています。
ノンレム睡眠には、成長ホルモンによる成長促進・疲労回復を行うなどの役割があるとされています。
一方で、レム睡眠の役割は明確にはなっていませんが、ノンレム睡眠とともに老廃物除去や記憶の整理の役割を担っていると考えられています。
【参考】日本睡眠学会 編. 睡眠学 第2版. 朝倉書店2020 p.11-24
ヒトをはじめ多くの生物は、地球の自転・公転周期に合わせた生体リズム*1 を持っています。
この生体リズムは体内時計とも呼ばれ、体内環境(体温、ホルモン分泌など)を変化させる機能を持っています。
ヒトの体内時計のうち、概日リズム(サーカディアンリズム)は約25時間周期で変動しており、外部刺激(光など)のない条件下では、外部環境(1日24時間)とずれが生じることがわかっています。
ヒトは、光刺激などを利用してこのずれを調整し*2 、昼夜サイクル(日照時間など)の変化や個々の生活時間に体内時計を合わせていると考えられています。
ヒトの体内時計は、1日24時間の昼夜サイクルに合わせて、深部体温やホルモン分泌などを変化させ、体内環境を整えていることがわかっています。
深部体温とは、心臓や脳など身体深部における体温で、外部環境の影響を受けにくいという特徴があります。明け方に最も低く、日中の活動にともなって徐々に高くなり、夕方から夜にかけて最も高くなります。就寝時には、血流を通じて体温が手足から放出されることで深部体温が下がり(手足は温かくなる)、入眠が促されると考えられています。
メラトニンは、概日・季節のリズム調節を行うホルモンです。日中は分泌量が減少し、夜になると増加します*3。就寝時間には、脈拍、体温、血圧などを低下させ、身体を睡眠に向かわせる作用があることがわかっています。
コルチゾールは、代謝促進を行うホルモンです。明け方に増加して、血圧や血糖値を上昇させ、起床と日中の活動の準備を行いますが、午後には減少し、それにともない身体の活動量も徐々に低下します。
ヒトは、目覚めている状態(覚醒状態)が続くと、脳に疲れがたまり、徐々に「眠りたい」という欲求(睡眠欲求)が高まります*1。
睡眠欲求は、ヒトが眠ることにより低下し、適切な睡眠時間がとれると消失します。
このように、疲れた脳を睡眠により休ませ、回復させる働きが、睡眠の恒常性維持機構*2です。
一方、ヒトは、朝になると覚醒シグナルが高まり、睡眠状態から目覚めます。
そして、夜になると覚醒シグナルが低くなり、眠りやすくなります。
このような、朝、目覚めて夜になると眠くなる働きが体内時計機構です。
ヒトの睡眠は、睡眠の恒常性維持機構と体内時計機構により調節されています。
そのため、日中は高い覚醒シグナルにより覚醒するものの、眠る直前は覚醒シグナルが低くなり、蓄積した睡眠欲求によって眠気を感じるようになります。
覚醒状態が長く続くほど、睡眠欲求はより高くなり、また睡眠時には深い睡眠が増えることがわかっています。
しかし、夜更かしや徹夜をしてしまうと、翌日いつもと同じ時間に起床が必要な場合、睡眠欲求が消失しきらないまま、朝を迎えてしまうことになります*3。
昼寝は、睡眠欲求の解消につながります。しかし、長時間の昼寝をしてしまうと、夜間睡眠までに睡眠欲求が高まらず、入眠しにくくなることもあります。